Article

        

夏樹「NO FUN」

2018/ 09/ 22
  • タグ:多田李衣菜 松永涼 木村夏樹

  •                  
    目次
    1 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/17(日)10:23:10 ID:iYi

    悩んでいる。このところ、なにをどうしても心が振るわない。

    なにをしていてもどこか宙ぶらりんとしている。

    コンビニで週刊誌を買って、毎週楽しみにしている連載を数ページ捲って、その内容が頭に入ってこない。

    それっぽく流し読みをして、適当な場所へ放ってしまう。

    何か月か前に見つけて以来、気に入って通っていた気の利いたホットドッグが食べられるコーヒースタンド。

    そこのチーズドッグを一口齧って、それで満足してしまう。

    メチャクチャに旨いんだけど、なんというか、それ以上気が向かない。

    2 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/17(日)10:24:09 ID:iYi

    「つまり、今みたいな状況ってワケか」

    テーブルを挟んで座っている涼が、アタシと食べかけのチーズドッグとを見比べている。

    「まあな」

    「珍しいこともあるもんだ。夏樹もおセンチになるとはね」

    「本当にな。もしかすると、ちょっと長めのアレなのかもしれねぇ。まあ、そんなんは勘弁だけどな」

    アタシが口元だけニヤっとさせると、涼はその切れ長の目をいっそう細くして、人差し指でテーブルの端を軽く二回叩いた。

    食事の席だ、と言いたいのだろう。変にマナーにうるさいのは、涼の育ちの良さが故だ。

    アタシは悪かった、のつもりで手をひらひらと揺らした。

    「一言で表すとだな、楽しくない。楽しくないんだよ」

    「ふーん…」

    「よぉ、けっこうマジに悩んでんだ」

    涼はゆっくりとコーヒーカップに手を伸ばした。

    アタシもそれにつられるように、一口含む。

    すっかり冷めてしまっているが、切れの良い苦みはしっかりと残っている。

    3 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/17(日)10:24:57 ID:iYi

    「ダチと一緒にメシ食ってるってのに、退屈ってのはどうなんだよ」

    「悪ぃ……でも、涼といて退屈ってワケじゃねぇんだ。なんていうかな……日常が楽しくないんだ」

    涼は眉を顰めながら、コーヒーカップを丁寧に置いた。

    「ますます分からん」

    「なんというかだな、日常における感動がねぇというか、沸き立つものがねぇというか……イライラするでもないし、暗い気分ってワケでもない。とにかく楽しくないんだよ」

    アタシは話しながら、自分のマヌケな精神状態に、苛立ちに似た悲しさを感じていた。

    そしてそれが表に出てこないように、手元のコーヒ―で一気に喉奥へと流しこむ。

    その姿がどう見えたのかは知らないが、涼はアタシから視線を外すと、それを床の方へと落し、しばらく黙りこくった。

    なにか、考え事をしているかのようにも見える。

    「まあ、事情は分かったよ。確かに、ここ数週間の夏樹はハリがなかった。まあでも、人間、誰にだってそういう時があるもんだ。原因のハッキリとしない、モヤモヤが心に膜を張ったような……」

    「そう、まさにそれなんだよ。原因がわかんねぇから、余計にもどかしいんだ」

    原因ねぇ…、と呟く涼の目元は、どこか呆れて、冷めた目をしている。

    まあ、ガキみたいな悩みを聞かされて、ウンザリするのは分かる。

    しかし、ダチがこんなにも悩んでいるんだ。

    もうちょっと親身になってくれてもよさそうなものだが……。

                
    PICK UP!

    4 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/17(日)10:25:26 ID:iYi

    「ギターのほうだって、調子が悪ぃんだ。この後のレコーディングも、正直な話、不安だ」

    そう、これも悩みの種だ。

    楽しくない、の影響が仕事にまで浸食しつつある。

    「だりーも参加するんだ。かっこ悪ぃとこは見せらんねぇだろ」

    すると涼は、良く通る声で笑い始めた。

    「あははははは!」

    突然の笑声に呆気にとられる。なにが可笑しい。

    次第に、沸々と怒りが込み上げてくる。

    「よぉ、こっちは真剣に……」

    思わず身を乗り出す……よりも先に、涼の背中越しに見える女子高生らしき三人組の視線が目に入った。

    羨望と疑惑と困惑とが混ざり合ったその六つの瞳は、真っすぐにこちらを見据えている。

    「ああ、もう……バレた、出るぞ」

    「くくっ……あいよ、チーズドッグはどうする」

    適当に包んでいくよ、と言って、テーブルに備え付けられていた紙ナプキンを二、三枚抜き取り、チーズドッグに軽く巻いて外に出た。

    5 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/17(日)10:26:49 ID:iYi





    店の外は、休日ということもあって、それなりに人で溢れている。

    時計を見ると、レコーディングの開始時間まで、ぼちぼちといったところ。

    スタジオもここからそう離れたところではないので、このまま歩いて向かうことにした。

    持ってきたはいいものの、やっぱりこれ以上、食べる気にならないチーズドッグを手の内で遊ばせていると、涼が今だニヤケの残った顔でのぞき込んできた。

    「さっきのことだけどサ、悪かったよ。突然、笑ったりしてな」

    「ああ、いったいどうしたかと思ったぜ」

    「まあ、なに。心配すんな。すぐに楽しくなってくるさ」

    近いうちにな、と言って涼は含むような笑みを見せた。

    アタシはその意味がさっぱり分からず、なんとも楽しくない。自然と溜息が漏れる。

    くそっ、なんなんだ……、面白くねぇ!



    ―――――――――――――――
    ―――――――――――
    ―――――――
    ―――

    6 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/17(日)10:27:52 ID:iYi

    しばらく歩いて、雑居ビルの立ち並ぶエリアにたどり着いた。

    ビルの間にぽっかりと空いた地下へと続く階段を降り、扉を開けると、プロデューサーとだりーが待合ロビーに置かれたベンチに並んで座っていた。

    だりーはアタシの顔を見るなり、まるで母親を見つけた子犬のように駆け寄ってきて、その眩しい笑顔を輝かせた。

    「久しぶりだね、なつきち!三週間ぶりくらいかな。涼も元気だった?」

    「ああ、久しぶり。海外ロケはどうだったよ」

    「楽しかったよ~!お土産もあるから、あとで渡すね。あ、なにそれ。ホットドッグ?」

    あんまりにも食いついてくるので、チーズドッグを渡してやると、だりーは一息のうちに口に放り込んだ。

    そのあまりにも無邪気に動く頬を見て、思わず吹き出す。

    「もっ?ひょっほ、なふひひ、わらはなひへほ~!」

    「あはは!なに言ってるかわかんねぇよ」

    海外帰りといえど、だりーはだりーなのであった。

    7 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/17(日)10:28:16 ID:iYi

    談笑もそこそこ、プロデューサーに促され、レコーディングルームへ。

    緊張しながら、ギターを一掻きすると……。

    「……あれ?」

    いつも通りの音。だが、良く響いている。気持ちのいい伸び。楽しい時の音だ。

    思わず涼の方に目をやると、さっきと同じようなニヤケた顔をしながら、いいじゃん、と言った。

    「言っただろ?近いうちに楽しくなってくるって」

    「ああ、良い感じだ……」

    なんでだろう、不思議なこともあるもんだ、というと、涼はニヤケ面を一気に強張らせ、アタシを見つめた。

    「なんでだろう?わかんねぇの?」

    なぜ、キレられてるのだろう。なにも理解できないまま素直に、わからん、と伝えると、涼は深い深い溜息をついて、

    「トンチキなこと言ってると、そのうち痛い目にあうぞ」

    と言って右肩を人差し指で強めに突いてきた。

    アタシは首を捻りつつ、この心に沸き溢れる“楽しい”という感覚が消えないようにと、ギィィィンと弦を弾いた。

    8 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/17(日)10:32:57 ID:iYi
    タイトルの元ネタはイギー&ザ・ストゥージズの楽曲「NO FUN」です。

    以上、今月分のお家賃でした。

    10 : 名無しさん@おーぷん : 2017/09/18(月)12:49:10 ID:fnT
    乙なのよ



    夏樹「NO FUN」
    http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1505611390/


    おすすめ記事
    アイドルマスターシンデレラガールズの関連記事
                
                                      

    コメント

            

            

     

    ブログパーツ

    最新記事